巨岩好き・パワースポット好きにはたまらない、岩窟めぐりのできる神社が大阪府交野市にあります。
磐船神社は天孫降臨の地といわれ、古くから聖地とされてきました。岩窟めぐりの体験では「生まれ変わり」ができると言われています。
今回は、磐船神社に降臨した神様とそのご利益、また岩窟めぐり体験の詳細と、その他の見所についてまとめました。見所満載の磐船神社ですが、岩窟めぐりには多くの注意事項もあるため、じっくりとお読みいただければ幸いです。
ご神体は「天の磐船(あめのいわふね)」
磐船神社のご神体は、「天の磐船」と呼ばれる、高さ12メートル、幅12メートルの船の形をした巨岩です。大きさもさながら、宇宙船を思わせるこの巨岩は、古くから人々の想像力をかき立てさせてきました。
この天の磐船は、饒速日命(ニギハヤヒノミコト)(以下ニギハヤヒ)という神様が乗っていた、空飛ぶ船であると考えられています。
ニギハヤヒは天津神(あまつかみ)、つまり天上の国である高天原(たかまがはら)にいた神様ですが、祖母神である天照大御神(アマテラスオオミカミ)(以下アマテラス)より命を受けて、葦原の中つ国と呼ばれていたこの地上界へと降臨しました。そのとき乗ってこられた乗り物こそが、大阪府交野市の磐船神社に残っている天の磐船です。
天孫降臨の地として、この場所は信仰の対象であり、聖域とされており、現在もパワースポットとして崇敬されています。
磐船神社には本殿はなく、ご神体である天の磐船に向かって拝礼するように拝殿が設けられています。
天孫降臨の伝説で有名な瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)(以下ニニギ)とニギハヤヒ
天孫降臨と聞いたとき、あれ?それって九州の話じゃないの?と思った方もいるかもしれません。神主さんの読み上げる祓いの詞にも、「筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原……」と言っており、宮崎県高千穂町が天孫降臨の地として有名なのに、なぜ大阪で?とお思いになったと思います。
この有名な天孫降臨の神話の主人公はヒギハヤヒではありません。ニギハヤヒと同じく、アマテラスを祖母神に持つ、ニニギノミコトという神様が、三種の神器を携え、葦原の中つ国に降臨したという伝説が、多くの人の抱く「天孫降臨」のイメージでしょう。
ニギハヤヒについてはニニギの兄神であるとする説などさまざまな推論が立てられていますが、はっきりしたことは実はよくわかっていません。
しかし、天孫としてアマテラスより命を受け、葦原の中つ国に降臨したことは間違いなく、その証拠に磐船があります。
加藤肥後守の伝説
磐船のてっぺんには、加藤肥後守と石工とされる人物の名が刻まれています。
加藤肥後守は、大阪城築城の際、将軍に命じられてこの磐船を切り出し、運ぼうとしました。しかし、この岩を切り出してもらおうと石工に頼んだとき、割ったそばから血が飛び出てきて、磐船を運ぶことを思いとどまったという伝説が残っています。
本当はあまりに大きな岩を前に断念しただけかもしれませんが、ご神体ともなっている岩を動かすことでたたりが起きたりすることを、出血という形で表現したのかもしれません。
この伝説は最近までは忠臣加藤清正が、将軍豊臣秀吉に命じられた、という話として広まっていましたが、現在は時代考証の結果、加藤肥後守とは加藤清正の息子のことで、秀吉よりも後の時代の出来事であると考えられています。
磐船神社のご祭神とご利益
磐船神社のご祭神は、ここまでにも出てきている饒速日命(ニギハヤヒノミコト)です。
ニギハヤヒは物部氏の祖先神とされています。9世紀頃に書かれたといわれる『先代旧事本紀』には、ニギハヤヒはアマテラスより十種神寶(とくさのかんだから)を賜り、32柱の神様とともに天の磐座に乗って、河内国河上哮ヶ峯(たけるがみね)=磐船神社の周辺地域へと降臨されたという記載があります。
ニギハヤヒのご利益は、諸願成就、病気平癒、交通安全となっています。
また、後述しますが、磐船神社はご祭神へのお参りだけでなく、石仏へのお参りや、岩窟めぐりをすることでさらなるご利益が期待できます。
物部氏とは
古代日本では、河内国を牛耳っていたのが九州地方出身の、物部氏と呼ばれる豪族でした。この頃すでに天の磐船は祖先神を祀る聖地と考えられていたのです。呪術を得意としていたため、宗教儀式など祭祀はすべて物部氏によって行われていました。中でも、市名にもなっている肩野(かたの)物部氏が、この地域で実権を握っていたようです。
交野市にある森古墳群は、肩野物部氏のものと考えられる前方後円墳であり、大きな力を持った豪族であったことを思わせます。
物部氏はその後、奈良に拠点を持つ大豪族である蘇我氏との争いで徐々に力を失っていきますが、磐船が現在も信仰の対象として祀られていることは、物部氏が創りあげた一時代の遺構ともいえるでしょう。
十種神寶(とくさのかんだから)とは
ニギハヤヒがアマテラスより賜った十種神寶とは以下の10種類の神宝をいいます。
遠くを映す鏡=①羸都鏡(おきつかがみ)、近くを映す鏡=②邊都鏡(へつかがみ)の2種類の鏡。鏡とは、神様そのもので、ここではアマテラスのことと考えられます。
内なる邪を祓うとされる③八握剱(やつかのつるぎ)。剱とは、厄除けのご利益を持つ素戔嗚尊(スサノオノミコト)を指します。
生命力そのものである④生玉(いくたま)、形が満ちていることを表す⑤足玉(たるたま)、よみがえりの⑥死反玉(まかるがえしのたま)、道を外れたものを連れ戻す⑦道反玉(ちがえしのたま)の4つの玉。
這いよる邪を祓う⑧蛇比禮(おろちのひれ)、飛んでくる邪や攻撃を撃ち落とす⑨蜂比禮(はちのひれ)、すべての邪を祓う⑩品物比禮(くさぐさのものひれ)の3つのひれ。「ひれ」とは天女の羽衣のようにひらひらしたものをいいますが、回転する武具を指す場合もあります。
ニギハヤヒはこれらの神宝を使い、病気や感染、痛み苦しみを取り去り、死者すらも甦らせる力を持っていたとされます。
このような神話から、ニギハヤヒをお参りすることで、諸願成就や病気平癒のご利益が得られることが明らかになります。
【感動体験】岩窟めぐり
さて、磐船神社へ行くならぜひ体験してほしいのが岩窟めぐりです。数多くの巨石・巨岩が形成した岩窟は、古くから修行の場とされてきました。本来なら安全対策をするべきかもしれませんが、現在も最低限の対策のみ行い、あえて修行の場をそのままに残してあります。
岩窟めぐりをしたい方は、勝手に行くのではなくかならず社務所で拝観料を支払い、注意を受けるようにしてください。拝観料は、大人500円・子ども300円ですが、10歳未満のお子さんと、75歳以上は年齢制限により拝観不可となっています。ほかにも極端な肥満体型の人や足腰が弱い人など、神社の方に危険と判断されると拝観を断られることもあるかもしれません。
社務所では行衣(しろたすき)とわら草履の用意がありますが、はじめから拝観すると決めているのであれば、ヒール靴など滑りやすいものはやめておき、履き慣れた靴で行くようにしましょう。
また、飲酒後・夜間・雨天時・増水時には拝観不可となるため、天候と健康状態に留意し、飲酒を控えて拝観に臨んでください。
拝観時間や休業日については不定期になりますので、公式サイトを確認するか、電話をかけて確認してから行くようにすると空振りを防げます。
さらに、一人での岩窟めぐりは禁止されているため、なるべくは誰かと一緒に行くようにしましょう。どうしても一人で行きたい場合や、ほかの人の都合がつかず一人になったときは、事前に連絡をして神社の方に同行してもらうよう願い出ましょう。
以前には死亡事故もあるため慎重に
ここまで読むと、やけに注意事項や禁止事項が多く、行くのが億劫になるかもしれません。しかしそれには、2014年に起こった転落死亡事故の影響があります。
亡くなったのは40代の女性で、一人で岩窟めぐりをしているときに転落してしまったようです。この事故の後、一時は休止となった岩窟めぐりですが、注意喚起や安全対策を講じ、再開されました。
一人での拝観が禁止となったのもこの事故の後で、転落等の事故が起こったときにすぐに助けを呼べる、すぐに気付けるように配慮されています。
岩窟めぐりはあくまで修行の場ですので、危険も隣り合わせとなります。甘い考えで拝観するものではありませんので、神社の方の注意をしっかりと受けてください。
岩窟めぐりで生まれ変わり体験を
岩窟めぐりは、5メートルほどの下りからはじまります。現在は階段がありますが、戦前までは荒縄を伝う形だったとのことで、修行の厳しさがうかがえます。
岩の下を這ったり穴をくぐったりするのですが、胎児が産道を通るのになぞらえ、「生まれ変わり」ができると言われています。順路は白い矢印があるため、かならず従ってください。
この穴をくぐり抜けた先には空が見える場所もあり、まばゆいほどの光が、この世に生を受けたことへの感動をもたらします。
道に迷っていたり、不安に押しつぶされそうに感じている人は、新たな自分に出会ったり、新たな道を開くために岩窟めぐりをすると、なにか気づきが得られそうですね。
岩窟めぐりの終わりがけには、白龍・黒龍・金龍など、龍の神様が祀られています。ニギハヤヒは龍の神様でもあるため、こちらにお祀りされているのでしょう。厳粛にお参りをし、岩窟めぐりを終えましょう。
磐船神社の見所
磐船神社には、ご神体である磐船と巨石でできた岩窟めぐり以外にも多くの見所があります。
天の岩戸
天の岩戸というと、宮崎県高千穂町のものが有名ですが、磐船神社の天の岩戸は、岩窟めぐりが終わり、階段をのぼってすぐのところにあります。
荒くれ者の弟神・素戔嗚尊(スサノオノミコト)が原因で姉神であるアマテラスが引きこもってしまったのが天の岩戸です。太陽神であるアマテラスが岩戸の中に閉じこもってしまったせいで、世界は闇に包まれてしまいますが、周囲の神々が知恵を出し合い、アマテラスを岩戸から引っ張り出すシーンは神話として広く知られています。
磐船神社の天の岩戸は、3枚の巨岩が扉のように合わさっていることが特徴的で、力自慢の手力雄命(タヂカラオノミコト)が少しだけ開いた岩戸の扉を力いっぱい開くようすを思い浮かべることができそうです。
オキ大神
天の岩戸のすぐ近くに、「オキ大神」と書かれた石があります。どんな神様なのか、どのようなご利益があるのかはよくわかっていない神様ですが、一説によると、稲荷社の総本宮である伏見稲荷大社のある、稲荷山の神様だといわれています。
稲荷山には有名無名問わずさまざまの神様が祀られており、そのうちの1柱にオキ大神もいるのではということです。
また、推論ではありますが、「オキ」とつく神様には、「奥津彦(オキツヒコ」「奥津姫(オキツヒメ)」という兄妹という関係の2柱の神様がいますので、それらの神様に由来するものかもしれません。
オキツヒコ・オキツヒメは竈神であり、仏教では荒神さんとして親しまれています。稲荷社も五穀豊穣など食べ物に関するご利益のある神様ですので、そのあたりの共通点からオキ大神が稲荷山にお祀りされている可能性があります。
四社明神
磐船の近くの巨岩には、大日如来・観音菩薩・勢至菩薩・地蔵菩薩の4体が彫られています。この4体の仏様は、日本の神様でいうと住吉四神になります。
磐船神社と住吉大社の関わりは深く、住吉大社の神主を務めていた津守氏は、ニギハヤヒの子孫にあたります。神仏習合時代の影響を色濃く残しているのが石仏からも見てとれるでしょう。
まとめ
磐船神社は、アマテラスの孫神であるニギハヤヒが、従者とともに乗ってきた天の磐船をご神体としている神社です。ニギハヤヒは、河内国を治めていた物部氏の祖神であることから、その信仰の歴史がいかに長いかを知ることができます。
岩窟めぐりでは、巨岩の迷路の中を這い、くぐることで、産道を抜ける追体験をすることができ、大きな感動を生むと評判です。生き方に迷っている人や、これまでとは違う自分になりたいと渇望している人は、ぜひ行ってみてください。
ほかにも天の岩戸やオキ大神、石仏などをお参りすることで、神様の歴史を感じることができ、さまざまなご利益を受けることもできます。
最近うまくいかない、エネルギーが欲しいという方は、古から続くパワースポット、磐船神社を訪れ、じっくりとお参りをしてみてはいかがでしょうか。