そこだけ江戸時代から切り取ってきたように、ビルの谷間に鎮座する少彦名神社。
「神農さん」と親しまれ、張子(はりこ)の虎をモチーフとした授与品の多い神社ですが、いったいどんな神社なのでしょうか。
ここでは、少彦名神社のある道修(どしょう)町がどんな町か、ご祭神やご利益についてまとめています。また、少彦名神社のお祭りや、医薬関係・ペットに特化したご祈祷についても記しました。
さらに、少彦名神社の大きな特色といわれる御朱印についても詳しくまとめていますので、ぜひお読みください。
豊臣時代からの薬の町・道修町
少彦名神社のある大阪市中央区道修町は、豊臣秀吉が天下人であった時代、すでに薬の取引が行われていました。商人の町として知られる堺の小西吉右衛門という人が、薬種屋を開いたことが始まりとされています。
薬は一つ間違えば効能を感じられなかったり、命に関わることもあるため、誰でも扱えるものではありません。それは現代でも医薬分離がなされ、医者の処方に応じて薬剤師が調剤を行うことからもわかります。
江戸時代になると、幕府はこの道修町の薬屋が適正な売買をできると確認したうえで、全国各地の薬屋の元締めとなるような特権を与えました。
それに伴い、薬の売買が正しく行われるよう、安永9(1780)年、後述する薬の神様をご祭神とした神社を鎮座します。その神社こそが、少彦名神社です。
境内には入館無料の「くすりの道修町資料館」もあり、家庭薬から医学書まで、多くの資料を誰でも気軽に見ることができます。道修町では現在もレトロな薬屋街が残っているので、町並みから楽しめるのも魅力の一つとなっています。
少彦名神社のご祭神とご利益
少彦名神社では、社名にもなっている少彦名命(スクナヒコナノミコト)(以下スクナヒコナ)と、神農炎帝(シンノウエンテイ)(以下シンノウ)の2柱の神様がお祀りされています。
2柱はどちらも医薬の神様ですが、スクナヒコナは日本の神様、シンノウは中国の神様で、それぞれまったくいわれの異なる神様です。
医薬の神様というと、薬品メーカーや医学・薬学に通じている人にしか関係がないようですが、薬の神様というところから、健康長寿の祈願や病気平癒のために参拝に来られる方が多数います。
少彦名命
日本医薬の神様であるスクナヒコナは、童話・一寸法師のモデルにもなったといわれる小さな神様です。
神話の世界では豊葦原中つ国であるこの地上で国造りをしていた大国主命(オオクニヌシノミコト)に協力し、さまざまな活躍をしたことで知られています。そのため、医薬・酒造・温泉・まじない・農耕など多くのご利益があります。
とくに酒造という点では、古来日本では酒は薬の一種と考えられており、その技術をスクナヒコナが伝えたことから、薬の神様としての役割をまっとうしているといっていいでしょう。
神農炎帝
少彦名神社は「神農さん」と親しみを込めて呼ばれることも多いのですが、それはこの「神農炎帝」という神様から来ています。
シンノウは中国医薬の祖神であり、医薬と農耕を伝えたといわれます。そのため、薬王大帝、五穀仙帝と呼ばれることもあります。
自ら百草を嘗めて効能や毒性がないかなどたしかめていたため、最期は体内に毒素を溜め込みすぎ、毒性のある植物を嘗めたことが死因だったとも言われます。
医学・薬学に特化したご祈祷
医薬関連の会社等はもちろんのこと、少彦名神社では、医学・薬学の道を目指す方のためのご祈祷が行われています。
試験を控えた学生などにとっては、天神様のような学問の神様にお参りに行くことが主流となっていますが、中でも医学・薬学は最難関の試験をくぐり抜けた人だけが入ることの許される狭き門ともいえます。
有名な神社やお寺では、数組の祈願者が一度に祈祷を行ってもらうこともよくありますが、少彦名神社では1組ずつ祈祷をしているため、事前に予約をしてから行かれることをおすすめします。
ペットのご祈祷もさかん
薬の町である一方で、道修町はペットのための医薬品メーカーや消臭剤のメーカーなどにも縁の深い町です。そのため、ペットの健康・安産・病気平癒といった祈祷も受けることができます。
動物の中には人間より寿命の短いものも多いため、ペットを飼うとさまざまな心配がつきものとなってしまいます。ペットのためのご祈願を明確に知らせてくれている神社はあまりないため、家族の一員としてご祈祷を受けさせたいという方は少彦名神社に行かれるといいでしょう。
犬には7、10、13、16歳のときに、猫には4,7,9,13,15歳のときに厄年があるとも言われています。最近よくケガをする、病気がなかなか治らないといった悩みがあるなら、一度ご祈祷を受けるのもいいかもしれません。
また、愛犬家、愛猫家に嬉しい、「にくきゅう守」も授与されています。ペットは飼えないけど肉球は好き!という肉球ファンにもおすすめのお守りです。
少彦名神社の【限定】御朱印
少彦名神社では、神事のあるごとに特別な御朱印をいただくことができます。そのため、一年のうちに何度も訪れ、異なる御朱印をいただくという楽しみがあります。少彦名神社特製の御朱印帳もあるため、少彦名神社のためだけの御朱印帳を持つのもいいかもしれません。
同じ神社で何度も御朱印をいただいてもいいの?と思う方もあるかもしれませんが、御朱印とは、その神社の神様に参拝した証です。あくまで参拝がメインですが、訪れるたびにいただくことにはなんの問題もありません。
ここではいくつかの特別な御朱印をご紹介します。
新年限定・干支の御朱印
干支というと子丑寅宇……と続く十二支を浮かべる方が多いでしょうが、少彦名神社の御朱印に書かれる干支は、「十干十二支」といいます。
2020年であれば「庚子(かのえ・ね)」の年で、十干十二支は60年かけて一周します。そのため、御朱印を毎年いただいても一揃いするまでに60年かかるわけですが、そのぶん貴重な一枚となることは間違いありません。
干支の御朱印は1月いっぱいが授与期間となる予定です。
節分限定・鬼は外福は内の御朱印
少彦名神社の御朱印の特徴ともいえるのが、彩り鮮やかなハンコです。2月1日~3日限定で、節分にちなんだ、お多福と鬼の押印がなされます。
これらのハンコは宮司さんご夫婦が手作りされており、気持ちのこもった御朱印であることがわかります。
厄(89)を除けるという意味合いを込めて、七粒の豆が黄色く輝いているのも縁起が良い御朱印です。
数量限定の御朱印ということですので、気になる方はお早めに参拝するといいでしょう。
雨の日の限定御朱印
こればかりは欲しいと思っていただけるものではありませんが、特別な祭事のない日でも、雨天であれば和傘の手彫りハンコを押印した御朱印をいただくことができます。
ハンコの色が毎月変わるという趣向も凝らしてあり、雨の日でもあえて参拝したくなる工夫ともいえます。
奉仕者限定の御朱印
1日10名限定ですが、30分の境内清掃で特別な御朱印を無料でいただくことができます。
御朱印には「内清浄 外清浄」という言葉が記されており、身も心も清まることを意味しています。きっかけは御朱印が欲しいということであっても、30分の清掃を行ううちに、心の内側から静かになり、清らかな気持ちになるのではないでしょうか。
ご奉仕は境内の状況によるため、混雑時には断られてしまうこともあるということを念頭において行かれてください。
その他の御朱印
そのほか、桃花祭、春分祭、端午祭、夏越大祓、七夕祭と、春夏秋冬、四季折々の神事や祭事に応じて美しい御朱印を用意してくださっています。
数量限定のものもあるため、かならず授与いただけるかはわかりませんが、神様にご挨拶に向かうという気持ちを持つことが大事ですので、参考になさってください。
毎月23日に行われる献湯(けんとう)神楽
11月以外の月の23日、お昼の12時30分から、「湯立(ゆだて)」と呼ばれるお神楽が奉納されます。(11月の23日は例大祭である神農祭が行われています。)
お湯は薬を飲むときにかならずといっていいほど必要なもので、薬との結びつきが深く、お湯を神様に捧げることで健康や薬の町である道修町全体に対する祈りを行うのが献湯祭の目的です。
格式高い神事を誰でも見学することができるだけでなく、御神酒のおふるまいや、湯立で使用されたお湯をお分けいただくこともできます。このお湯は「湯花(ゆばな)」といい、家の中の清めたい場所(水回りなど)に撒いたり、お風呂に入れて入浴すれば心身の浄化につながります。
神職による祝詞の奏上や巫女による式神楽の奉納も、日頃見られるものではありません。
大阪「とめの祭り」と呼ばれる例大祭・神農祭
大阪のお祭りは「えべっさん」に始まり、「神農さん」で終わることから、「とめの祭り」と言われています。曜日に関係なく、毎年11月の22日、23日の2日間行われます。
文政5(1822)年、大阪においてコレラが広がったため、「虎頭殺鬼雄黄圓(ことうさっきうおうえん)」という丸薬を、張子の虎のお守りと共に授与したことが神農祭の始まりです。
現在は、丸薬はなくなりましたが、五葉笹に張子の虎をつけたお守りを授与するという形で継承されています。
お神楽奉納などの神事もありますが、興味深いのは各医薬品会社が、ゆるキャラを参加させていること。普段お世話になっている医薬品メーカーのゆるキャラを見ると、医薬に親近感がわいてきます。
厳粛な神事に参加し、御朱印やお守りを授かった後には、ゆるキャラも参加する賑わいの場を楽しむのもいいですね。
少彦名神社のご祭神であるシンノウは、その子孫が日本で初めて露天商を開いたという逸話などから、テキ屋の守り神として信仰されています。神農祭では周辺に多くの屋台が出ることも有名ですが、こういった経緯があるからかもしれません。
少彦名神社でおすすめの授与品
少彦名神社では張子の虎をモチーフにしたものや、神様の御姿を象ったものなど特色ある授与品が豊富です。中でもおすすめのものをご紹介します。
仕事成就守
五葉笹と張子の虎が織り込まれたお守りで、ほかに病気平癒、健康を祈願したものもありますが、とくにおすすめなのが仕事成就守です。
ご祭神には交易の神としての一面もあることから、商売繁盛のご利益もあると考えられています。
少彦名神社の公式ページではこの仕事成就守をノーベル賞受賞者がお持ちだという記述もあるほどで、仕事や研究の成就を願って持つことで大きなご利益が得られます。
御神絵
ご祭神である少彦名命と神農炎帝がそれぞれ描かれたものです。
お札ではなく御姿をお飾りしたい、参拝したいという方におすすめします。
最近はお守りもカバンなどにつけるよりは、家に置いている人も多いと思いますので、神様の御姿そのものをお飾りし、お参りの習慣を身につけていると、いつもこれらの神様に見守っていただくことができます。
健康快眠守
健康というとついケガや病気に目がいきがちですが、睡眠の質は健康に直結します。
うまく眠れない、眠りが浅い、夜中に何度も起きてしまうなど、睡眠に滞りを感じている人は、健康快眠守りを授与されるといいでしょう。このお守りにはスクナヒコナとシンノウ、2柱の神様の御姿が描かれています。
絵馬
少彦名神社には、神様の御姿が描かれたものと、張子の虎が描かれたもの、2種類の絵馬が授与されています。
医学・薬学の道を目指している人や、ご祭神のご利益を得たいという人は願意を絵馬に書き奉納すると成就するといわれています。
破邪清浄守
少彦名神社には天然石を使用したネックレスやブレスレットのお守りも多数あります。
その中でも、心の動揺を鎮め、直感を鋭くさせてくれるといわれるソーダライトと水晶でできた「破邪清浄守」をおすすめします。
名前からもわかるようにケガレを祓い、心身の清浄を保つお守りであり、目標を達成するために前向きに物事を考えられるような作用を持つ石が使用されています。
まとめ
薬の神様としてはよく知られている少彦名命ですが、農耕やまじない、酒造など多方面に長けた神様であることがわかりました。
少彦名神社では、毎月23日のお神楽や11月22日23日の神農祭など、さまざまな神事が行われています。一般の人がなかなか見ることのできない神事を見ることができるのは魅力的ですね。
また、それらの祭事の際にはかならずと言っていいほど、限定の御朱印が授与していただけるのも見逃せません。宮司さんご夫婦が手彫りされたというあたたかみのある押印は、参拝者へのこれ以上ないねぎらいになるでしょう。
四季折々に訪れて、神様の息吹きをそこここに感じる、そんなゆとりを持ってみてはいかがでしょうか。