地域の鎮守の杜として親しまれてきた江坂神社では、現在でも地域に密接なつながりを持ち、人々と神様との間を取り持つ役目を担ってくれています。
今回はそんな江坂神社が、どのような神様をお祀りしている神社かご紹介します。また、境内の見所や御朱印、神事などに触れていますので、ぜひ一読ください。
江坂神社の正式名称は「素盞嗚尊神社」
公式のHPも「江坂神社」というタイトルで作成されていますが、あくまで通称であり、正式な名称は「素盞嗚尊(スサノオノミコト)(以下スサノオ)神社」といいます。
スサノオは伊邪那岐命(イザナギノミコト)・伊邪那美命(イザナギノミコト)の夫婦神から生まれた有名な神様ですが、吹田市江坂町という地名を使った通称のほうが有名なのは、地域から愛されている証拠といえます。
社名の書かれた石碑には「素盞嗚尊神社」という正式名称が書かれていますので、参拝のときに確認されるといいでしょう。
この記事のなかでは通称の江坂神社で表記を統一します。
江坂神社のご祭神とご利益
江坂神社では主祭神として、社名にもなっているスサノオをお祀りしています。
地域にある多くの神社がそうなのですが、村の信仰の対象としてお祀りされているものが時代と共に神社へと発展することが多いため、江坂神社でなぜスサノオがお祀りされているのか、はっきりとしたことはわからないようです。
現存する資料を見ると、江戸時代中期に書かれた「榎坂村・蔵人村寺社御改帳」という公的な報告書にも、いつ頃から信仰されていたのかはわからないと明記されています。このことから、起源は相当古いものと考えられますが、推察するのみになります。
また、同じ社殿にお祀りされている相殿神としては、天照大御神(アマテラスオオミカミ)(以下アマテラス)と、誉田別尊(ホムタワケノミコト)(以下ホムタワケ)の2柱がお祀りされています。
3柱のご祭神から、庶民守護・疫病祓除・尚武護国・旱魃救済のご利益を授かることができます。
以下にそれぞれの神様のいわれやご利益についてまとめました。
素盞嗚尊
スサノオはすでにご紹介したとおり、イザナギノミコト・イザナミノミコトの2柱の神様から生まれました。
高天原と呼ばれた天の神様の国では荒くれ者といわれ、追放されてしまいますが、中つ国と呼ばれる地上の国では英雄として名を馳せています。
スサノオは薬師如来の化身といわれる牛頭(ゴズ)天王と同一視されており、どちらも疫病除けのご利益があります。江坂神社には厄払いのために参拝に訪れる人が多いのですが、それはご祭神の性質から明らかなこととなっています。
スサノオのご利益にはほかに、五穀豊穣や学問の上達といったものがあります。
明治以前、江坂神社は牛頭天王社とも呼ばれていましたが、明治政府の行った神仏分離によって仏教色を廃止するため、ご祭神の名前をスサノオに、社名を素盞烏尊神社にしました。古くからの名称と異なることも、通称である江坂神社のほうが親しまれている理由のひとつかもしれません。
スサノオは中つ国に降りてきてから、草薙剣(くさなぎのつるぎ)を手にヤマタノオロチを相手取ったという話が有名ですが、このときに生け贄にされる予定になっていたクシナダヒメと結婚する神話から、縁結びの神様としてのご利益も高い神様です。
天照大御神
アマテラスはイザナギノミコト・イザナミノミコトから生まれた神様であり、スサノオとは姉弟の関係です。伊勢神宮の内宮にお祀りされており、天皇家の祖先にあたります。そのことから、現在の日本の神道でもっとも重要とされている神様です。
アマテラスという名前からもわかるように太陽を司る神様であり、太陽神であるアマテラスが気を病み、岩戸の奥にお隠れになってしまうという天の岩戸の神話はだれもが一度は聞いたことのあるものでしょう。
ご利益としては国家・国土の安泰や生命力の上昇、五穀豊穣、子孫繁栄、開運招福といったものが挙げられます。
誉田別尊
ホムタワケノミコトといってわかる人は少ないですが、八幡神と聞くと、なんとなく耳に覚えがあるのではないでしょうか。
八幡神とは応神天皇のことで、母神である神功皇后とともに戦いの神様として広く親しまれました。
国家鎮護・庶民守護・所願成就のご利益があるとされており、全国に3万とも4万ともいわれる「八幡」を名乗る大小の神社で参拝することができます。
ホムタワケノミコト=八幡神=応神天皇と、名前はちがいますが同じ神様を表していることがわかると関係性がはっきりします。
末社・岩本稲荷社
末社である岩本稲荷社にお祀りされているのは、宇迦之御魂神(ウカノミタマノカミ)(以下ウカノミタマ)という神様です。
稲荷社というとキツネのイメージが強いかと思いますが、キツネはあくまでも眷属(使いの者)であって、稲荷社にお祀りされているのはキツネではなく、ウカノミタマです。
ウカノミタマのご利益としては、商売繁盛や五穀豊穣、家内安全が挙げられます。
吹田市の指定文化財であるご本殿
平成23年4月11日に指定されたご本殿の特徴は、「一間社流造・正面千鳥破風付・身舎に彩色を施す。身舎背面に間柱を入れ、三間とする」と指定書にあります。
中でも千鳥破風(ちどりはふ)を正面に設けているという特徴は、吹田市域にある三間社以下のお社では唯一ということで、とても貴重なご本殿であることがわかります。
注連柱(しめばしら)にも注目
一般的に神社へ行くと、俗世と神域との境として鳥居があったり、その鳥居に注連縄がかけられています。
江坂神社でも入り口となる場所には立派な鳥居がありますが、拝殿の前には注連柱という、少し珍しいものがあります。
これは、石などの2本の柱に注連縄を張ったものであり、意味合いとしては鳥居と同じようなものです。
関東にくらべて関西に多く、瀬戸内の地域、とくに広島市に多いという説もあります。
そもそも鳥居の起源は、神域となる場所に目印となる木を立てたことですから、そこからよく見られる鳥居に至るまでの過程で、注連柱が建てられたものと考えられています。
毎月1日にいただける参拝祈念の短冊
江坂神社では毎月1日の午前中、先着50名限りですが、参拝記念の短冊が置かれます。
短冊には毎月ちがった絵柄が描かれていますが、江坂神社の禰宜さんが描いており、滋味深い記念となります。
ひな人形や七夕といった年中行事に加え、茅の輪くぐりなどの神道に根付いたイベントなどが描かれているので、季節の移ろいを感じることでしょう。
時間に余裕のある方は、このタイミングを狙っていかれると神様との深いご縁を感じることができるのではないでしょうか。
アートな御朱印も
日付は定かではありませんが、1月中や湯立神楽などの神事に際には通常の御朱印ではなく、神事を模した絵柄の御朱印をいただける日もあるようです。
こちらも禰宜さんがお描きになられており、人の手で描かれたあたたかみのある御朱印になっています。
珍しい御朱印のために参拝するというのは本末転倒かもしれませんが、御朱印がきっかけになり神様とのご縁が結ばれるのであれば、それはそれで素晴らしい心のありかたではないでしょうか。
出土した家形石棺のフタ
境内には出土品である家形石棺蓋を見ることができます。
明治初期に社殿を造成するため、掘り起こした際に出土したと伝えられており、竜山石で作られています。
竜山石は古墳時代から石棺としてよく利用されており、加工のしやすさから現在では建築や造園に使用されています。日本でもっとも大きな前方後円墳である仁徳天皇陵の石棺にも使われており、竜山石の産地である兵庫県高砂市では宝殿石と呼ばれています。
神社では珍しい厄除けの護摩木
厄除けのための護摩木は、お寺では置かれているのを見ることがありますが、神社ではあまり見かけません。
主祭神であるスサノオの、疫病除けの神様という性質を重んじ、江坂神社では厄除けの護摩木があるものと考えられます。
護摩木は、氏名や住所などを書き奉納すると、節分祭の日に護摩焚きといって、お焚きあげをしていただくことができます。火には浄化の力があるため、お焚きあげをすることで厄難を祓うことにつながるのでしょう。
絵馬と古絵馬
今でこそ絵馬というと、さまざまな絵柄の描かれている木に願いごとを書いてお納めするものと認識されますが、絵馬の起源は、本物の馬を神様に捧げたことから来ています。馬は神様の乗り物と考えられていたため、神馬(しんめ)としてお供えしました。
時代の変遷とともに本物の馬ではなく馬の像を奉納するようになり、それが絵の馬へと変わっていきました。現在では馬だけでなく、干支や縁起物の描かれたものが主流となっています。
江坂神社には古絵馬と呼ばれる20点以上の絵画が残されています。江戸時代のものからあるとのことで、およそ300年の歴史を感じられる絵馬が今でも保管されているということです。
古くから絵馬が奉納されてきたという歴史のある江坂神社では、巨大な絵馬をお飾りしているのもユニークです。絵馬にゆかりのある神社で絵馬の奉納を行えば、大きなご利益が得られるのではないでしょうか。
江坂神社では現在、勇ましいスサノオが描かれたものや、玉串と「厄除」の文字が描かれたものを奉納することができます。学問成就や厄難除けなどのお願いをしたい方にとてもおすすめの絵馬になっています。また、スサノオには縁結びのご利益もあるため、恋愛成就のご祈願にもいいでしょう。
桜粥のおふるまいも!見所満載のスサノヲ祭
スサノヲ祭は毎年4月の第1日曜日に行われます。
演目には祭祀舞と呼ばれる女性のお神楽や、剣を使った舞、また、ヤマタノオロチ伝説をモチーフにしたお神楽など、さまざまな芸能があります。この国で古くから行われ脈々と継承されてきた伝統芸能はどれも見応えがあり、日常から離れ、神様との時間を大切にすることを深く感じることでしょう。
平成17年に始まったばかりの新しいお祭のため、現代人の感覚に訴えるものがあるかと思います。温故知新という言葉があるように、古くからある芸能や神事、風習を見つめ直し、現在にもつながるなにかを得るきっかけとなるのではないでしょうか。
お神楽や剣舞は、希望者を募り江坂神社でお稽古をしているとのことで、やってみたい、見学してみたいという人は連絡してみるといいですよ。
また、お神楽の途中や祭事の終了後にはおふるまいのお菓子や桜粥、御神酒をいただくことができます。春の訪れを感じられるお祭りになりそうですね。
舞姫の募集もあり
スサノヲ祭でお神楽を奉納するのは高校生以下の女性を主とした神楽舞会ですが、18歳以上の女性を対象に、「舞姫」として神前にて奉納を行う舞の指導を行っています。
毎月第2日曜日の13時から16時までお稽古を行っており、祭祀舞、浪速神楽などをお教えいただくことができます。
お神楽は若い女性のものと諦めている女性も多いかもしれませんが、江坂神社では大人の女性を対象とした舞姫募集を行っていますので、関心のある方は連絡をしてみるといいのではないでしょうか。
神様に捧げる舞を教わる機会はとても貴重ですから、いい経験になることと思います。
ほかにも誰でも参拝・見学できる祭事がたくさん!
江坂神社ではほかにも、誰でも参加・参拝・見学ができる祭事がたくさんあります。
1月15日のとんど祭
2月3日の節分祭
5月14日(宵宮)・15日(本宮)の春祭り
6月30日の夏越の大祓
10月14日(宵宮)15日(本宮)の秋祭り
とんど祭ではおぜんざいのおふるまい、節分祭では福豆の授与など、季節や行事にあった催しがありますので、折々に触れて参拝されるといいでしょう。
また、大きなお祭のときには厄除け湯立神事や、お神楽の奉納があるのも江坂神社の特徴です。
まとめ
江坂神社では、スサノオ・アマテラス・ホムタワケの3柱の神様と、稲荷社にはウカノミタマがお祀りされています。厄難除けや庶民守護のご利益がある神々のため、だれでも参拝することでご利益を得られます。
主祭神であるスサノオから名前を取った春のお祭、スサノヲ祭では、さまざまな芸能が披露され、見応えのあるお祭になっています。
スサノヲ祭では桜粥などのおふるまいがありますが、ほかにも毎月1日には参拝記念の短冊が用意されるなど、参拝の方へのあたたかいねぎらいが感じられる神社です。ぜひ一度参拝に行ってみてはいかがでしょうか。